能力の出し惜しみ【アスクラボメールマガジン2018年9月号】

以前のことになりますが、大手電機メーカA社のS社長と初めて面会したときのことです。弊社はA社の販売店でしたが、地方の一販売店でありA社トップに直接お会いするような機会はまずありません。しかし、弊社エリアを統括するA社のT支店長と懇意にさせて頂いていたこともあり、S社長との面会を調整して下さいました。
面会に指定された場所は山陰のホテルでした。著名かつご多忙なS社長はお仕事で滞在されていた山陰でマスコミの取材予定があったため、取材を終えられた後の時間を頂戴して、T支店長も同席されての面会となりました。

冒頭は当たり障りのない話で始まりましたが、頂いた時間が限られていたこともあり、私はT支店長に「めったにお会いできないS社長にお会いできたので、一般的な話でなく聞きたい ことを聞いてもいいですか?」と聞いてみました。すると私のことをよく知るT支店長は、「お前のことだから言いたいことを言えばいいよ」と言われました。

そこで私は、A社について思っていたことを聞いてみました。「御社の社員は著名な大学出身で高学歴の方が多いのに、入社して数年も経過すると頼りない印象の社員の方が多くなるように感じます。S社長はそのことをどのように思われていますか?」不躾な質問に怪訝そうな顔をされたS社長は、「逆に君はなぜだと思う?」とすぐに聞き返されました。「御社は超大手企業なので、社員の方は自分が必死にならなくても会社は倒産しな いし収入も安定していると思っています。つまり、社員の方が能力の出し惜しみをしているのだと思います」と私は答えました。S社長はしばし無言となり何かを考えておられるようでしたが、その後、話題は変わり、特に悪い雰囲気でもなく面会は終了しました。

その翌日、T支店長より連絡がありました。S社長が「アスクラボに50人ほど社員を送って鍛えてもらえ」と言い出しているがどうするかという内容でした。50人と言われるとアスクラボの全社員数より多いので無理ですが、2名程度なら可能という旨を回答しました。その結果A社より弊社へ2名の社員の方が2年間出向されることになりました。

A社の社員の方が弊社に出社された際、「私たちはS社長の指示により勉強に来ました」と非常に緊張された様子でした。そこで私は「A社のような大企業では自分の所属する部署やチームも大きいので、企業全体というより部分的な視点での役目しか理解できないかもしれませんが、弊社のような中小企業では、自分の部署・チームでの行動や結果が会社全体の業績や風土形成に直結します。個々、部署・チームでの考えや行動が、会社・組織にどのような影響を及ぼすか等々、会社全体の仕組みを見て・感じて、それらを経験して自分の武器にすると思えば出向のメリットがあります」と説明しました。

そして2年後、出向を終えたお2人に、弊社で勤務したことが何か学びになったかを聞いたところ、「会社で与えられる予算数字は『やらなければならないもの』と理解していたが、2年間のアスクラボ勤務で『何のために予算が必要なのか』という本質が理解できたように思います」と答えられました。

数字中心・上から下への管理マネジメントは、社員の潜在能力を発揮させることが難しく、能力が発揮されないまま年齢を重ねた社員はいずれ費用対効果が合わなくなります。企業競争力・組織営業力強化のためには、スタッフが能力を出し惜しみするのではなく、潜在的に持っている能力が発揮されるマネジメントが必要なのです。

◆PROナビ
IT業界あるいは金融機関も同じかと思いますが、「経営課題の解決」を提案営業する企業では、経営者層へのアプローチやヒアリングが必要となります。経営者層へのアプローチのためには、会社全体の仕組みなどについて現場の意見(部分最適)のみならず経営者の視点(全体最適)での理解を持った営業・技術者が大きな戦力となります。
 立場上、あるいは抱えている責任上、上層部や経営者層の考えと現場の考えに違いが発生するのは当然ですが、それぞれの立場の視点で物事を考えるためには、お互いの考えを少しでも理解することが必要となります。その役目を弊社ではPROナビが担っています。
企業経営のために必要な売上・利益を経営者層や上層部が考え、現場のユーザの声や市場の動きは最前のスタッフが収集し、組織の課題なども含めた日常的な情報をPROナビによって共有することで立場の違うお互いの状況を理解することにつながります。

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                     アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙