厳しさの中で学んだ説明力【アスクラボメールマガジン2021年10月号】
以前、岡山大学で、アントレプレナーに関する非常勤講師を担当したことがあります。同席されていた名誉教授が、私の講義の最後に「川嶋さんが皆さんの前で話をされたが、アントレプレナーには会話力・説明力が必要条件と思うのは間違いです。川嶋さんはご自身で行動して、多くの人と交流し、成功・失敗の経験、実際の現場を経験されたから、説明力や会話力を身に着けることができたのだと思います」と学生に向けて話され、とても印象に残っています。また、大企業の著名な経営者と面会の機会を得た際、「君は修羅場を経験しているようですね」と言われ、自分自身はそのような意識をしていなかったので、なぜそう思われるのかを聞いたところ「一言で自分を守る表現を知っている」と言われ、これも印象深く記憶に残っています。
過去を振り返ると、私はいきなりIT業界のビジネスへ入ったわけではなく、大学卒業後の10年間ぐらいは、建設資材の販売で建設現場へよく出入りをしていました。今から40年近く前のことですが、当時、現場で作業している方々は現場気質・職人気質の方が多かったため、まずコミュニケーションが取れて意図が通じる相手であると認識してもらった上で、初めて説明やクレーム対応が可能となることを、結果的に経験することができました。
IT業界のビジネスもユーザ0からの出発であったため、新規開拓のために交流の無い人とのコミュニケーションの経験、あるいはSIビジネスのクレーム対応にあたり、当時の私は人が避けること・嫌がることを経験すれば、人との差別化やオリジナリティを身に着けることができると思い、精神的なストレスはありましたが多くのクレームやトラブルに対応してきました。
その経験により、要点を端的に話さなければ相手は聞いてもくれない(簡単明瞭な表現の必要性)ということを体得しました。
過去のメールマガジンでも取り上げましたが、私は以前、人間の免疫とがんの関係・治療法について研究を行う会社を設立し、その会社の代表を現職との兼任で約10年間務めていたことがあります。その際には、今まで接したこともなかった大学の研究者である医師や、医療関係者と接し、交流・交渉を行っていました。また、先に述べた非常勤講師の経験による教授や教育関係者と交流・交渉、建設資材の販売経験による建設現場関係者との交流・交渉、ITビジネスに取り組み新たな開拓を行う中で大手企業の経営者、中堅・中小企業の経営者との交流・交渉等々を通じて、同じ表現でも相手によっては意図が通じにくく、業界・業種、職業、役職、立場により求める価値に違いがあり、相手の求めている価値により表現を変える必要があるということを実感しました。
しかし、相手が違っても共通していることもありました。例えば、ただ言いたいことを話すのではなく、体験談やエピソードなどを引用して説明すると、業種や役職に関係なく、比較的意図が通じていたように思います。相手も自分の体験に置き換えることで理解しやすかったのでしょうが、調べてみると、それは結果的に「ストーリーテリング」を行っていたのだと思います。
現在も、日々Webを活用しての提案やプレゼン活動を実践していますが、クレームやトラブル対応といった厳しい経験を積んだ結果が、今に活きていると思っています。
アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙