暗黙知【アスクラボメールマガジン】

私の父が自動車会社を経営していたことから、私は幼い頃から車を修理している場面をよく目にしていました。
その当時のエンジニアは、目で見て、耳で聴き、手で触って車の状態を掴み、経験で培った勘やコツを駆使して故障箇所を見つけ、修理していました。
しかし現在では、車の修理は機械に頼ることが多く、データを見て故障箇所を掴むといった状況に変化しているようです。

このような変化は他でもあるようです。
例えば、私が理事をしている医療機関にはベテランの医師がいますが、その医師は患者さんの目の輝き、歩き方、話し方などを観察し、自らが培った経験を加味しながら診断を行っています。しかし、医療機器の発達と分析技術の進歩により、数値データを元に診断することが増えた現在では、聴診器の使えない医師が増えてきているそうです。

また警察の捜査においても、科学捜査のための手法や機械の発達は目覚しいものがありますが、検挙率は下がっているという話を聞いたことがあります。これは、捜査官が現場で見たり聴いたりして積んだ経験や磨いた勘などに、データや機械が取って代った結果なのかもしれません。

さて、前述の例に限らず、様々なビジネスシーンや企業経営自体においても同様の傾向があるようです。
コンピュータの発達により、様々なデータ分析が容易になり、傾向抽出がしやすくなりました。分析出力されたデータを頼りに経営の判断材料として用いることも増えています。

しかし、経営状況を数値データだけで、判断できるでしょうか?

例えば、営業力強化を行なうといっても、数値データだけで実際に働くスタッフのモチベーションまで押し測ることは困難です。スタッフの目の輝きや声のトーンを実際に見て、聴き、感じて、日報の文面などから物事のとらえ方や感じ方の変化を管理者自身がつかまなければ、本来の営業力強化のためのマネジメントはできないはずです。

従来の日本では、個々のスタッフが「見る、聴く、触る」といった経験を通して得たコツや勘などのいわゆる「暗黙知」を有しており、その個々の有する「暗黙知」が組織内で受け継がれていく風土や文化がありました。

さまざまな分野において、科学技術の発達やコンピューターによるデータ分析の進歩無しには今後を考えることは出来ません。それらに加えて、従来の日本企業の強みである「暗黙知」の継承という要素が加わればより強固なものになると思います。

「暗黙知」という要素をマネジメントとして活かすことが、企業の営業力強化につながり、より効果をもたらすと私は考えています。

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙