既存顧客という幻想【アスクラボメールマガジン】
企業が年度毎に立てる予算計画は、その年度の行動指針として大変重要なものだと思います。
しかし、その予算計画の内容は、現在取引のあるユーザを「既存顧客」と表現して、過去の取引実績を基に作成している企業がほとんどではないでしょうか。
「既存顧客」とは、言葉通りに受け止めれば「既に取引をしている固定のお客様」なのでしょうが、市場が変化している現在、それは売り手側の視点で都合よく解釈しているだけではないかと思います。
昨今は、携帯電話、液晶テレビなど多くの商品で標準化が進んだ上に、メディアの発達によりメーカ側からの一方通行的な情報提供ではなく、買い手側が購入検討・判断のために必要な情報を必要なときに、容易に入手ができるようになりました。
その結果、お客様の囲い込みが困難になっています。
自動車産業などでも以前は系列取引が主流でしたが、現在ではグローバルな戦いの中で企業として生き残るために、“いかにコスト競争に勝てるか”ということがメインとなり、取引先の選別がシビアに行われています。
弊社が身を置くIT業界においても同様です。
メーカ固有のシステム(汎用機やオフコン)の時代には、他メーカへのソフトウェア資産継承は困難であり、お客様が取引先を変更することにかなりのリスクがありました。
実際に、その当時新規開拓のため取引のない企業を訪問すると、「折角ですが、弊社は○○メーカと取引していますから・・・」と、具体的な話をするまでもなく断られてしまうことが多々ありました。
しかし、現在では当時のようなことを言われる企業はありません。
クラウドやSaaSが主流となりソフト資産の継承が可能となった現在では、お客様が取引先あるいはメーカを変更するリスクが大幅に減少しています。
つまり、お客様自身、自社が生き残るために既存の取引に左右されない経営判断をしており、「メリットがない」と判断すればいつでも取引先を変更し、メリットをもたらす企業を取引先として選択することは当然のことなのです。
そのような状況であるにもかかわらず、売り手側は既存顧客が今後も継続的に自社と取引を行ってくれることを前提に予算を組み立てるのです。
その予算数字にどれだけの説得力があるのでしょうか?
既存顧客の取引実績をあてにした計画、また、定期的にお客様を訪問してお客様主導の提案を行うというような営業スタイルを続けていては、企業としての未来は間違いなく先細りです。売り手側は既存顧客に対しても、常に新規開拓の体制で立ち
向かわなければなりません。
・お客様の課題を聞く適任者はだれか?
・課題を聞きだすために必要なスキルは何か?
・課題解決策をどのようにたてるのか?
・低コストの戦いにいかに勝ち残るか?
これらの項目以外にも、既存顧客も新規開拓顧客ととらえ、そのためのマネジメント、人材育成、組織連携などをスピーディに具現化する必要があるのです。
なぜ他社に顧客をとられたのか?
それは、売り手側の意識と買い手側の意識の大きなズレであり、お客様に取引するメリットを判断された結果なのです。
弊社も例外ではありません。
「既存顧客とは売り手側の幻想である」という意識を持って改革を行わなければ、取り返しのつかない結果になると危惧しています。
アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙