さじ加減【アスクラボメールマガジン2021年2月号】
私が師と仰ぐ地元のご住職に、「人が最後まで学ぶのはさじ加減」という教えを受けました。
会社での組織の管理や親が子どもを褒めたり叱ったりするときなど、考えてみると「さじ加減」について身近で思い当たる場面は多々あります。ビジネスの場面に置き換えると、利便性・効率化の追求とスタッフの成長を考慮して、デジタルでの対応かアナログでの対応かそのバランスを判断するのも「さじ加減」です。
さて、新型コロナウイルスの影響でテレワークやオンライン会議、オンライン研修などが増え、その結果、場所の移動や会場が不要となり、会場も不要となり、エリアを選ぶこともなく、利便性・効率化の恩恵を受けました。その反面、オンラインでのやり取りが増えることによって低下する部分もあると私は思っています。
例えば、対人コミュニケーションは言葉だけでなく体の動きや姿勢、目の動きなどの視覚と、声の大きさや声のトーンなどの聴覚によっても行っていますが、オンラインでは対面の場合に比べて、視覚・聴覚などで感じることができる情報量は減少します。そのため、視覚・聴覚でのコミュニケーション力(空気を読む能力)が低下するのではないかと危惧しています。
自然の摂理として、人間の能力は使えば進化し、使わなければ退化します。以前にもメールマガジンでとりあげましたがいくつか紹介します。
自動車の修理を行うエンジニアも、かつてのエンジニアはエンジン音を聞いて故障個所を見つけるなど、経験を通して得たコツや勘などの「暗黙知」を有していましたが、現在ではそのようなエンジニアは少なくなったそうです。なぜなら、車の不具合はコンピュータ診断が主となり、暗黙知が必要とされない(使われない)状況になったからです。
私が懇意にしているベテラン医師から、最近は聴診器を使える医師が少なくなったと聞きました。それは、医療機器の発達と分析技術の進歩により、画像や検査データで診断ができるため、聴診器を使うことが減ったからです。
金融機関においても、外交スタッフに求められるのは融資を依頼してきた企業・経営者のやる気や能力、ビジネスの将来性、不良債権化のリスクなどを含めて融資の判断をするという、いわゆる「見極め力」でした。しかし現在では、融資に関して保証協会に紐づけしておけば、万が一不良債権となった場合でも金融機関の取りこぼしがなくなったため、結果として、外交スタッフの見極め力低下につながっているようです。
IT業界においても例外ではありません。
昔のSEより最近のSEのレベルが落ち、お客様の不満が蔓延しているという記事が日経新聞に掲載されていました。
昔のSEは、その多くが業務知識というアナログ部分の知識を持っていましたが、最近のSEは、その多くがデジタル知識は豊富なものの、アナログ部分の業務知識の面では低下しているように思います。
弊社の場合、以前より「システム構築の財産は業務知識を残すこと」という方針を決めていましたので、業務知識を持ったSEが技術部門の中心メンバーとなっており助かっています。
利便性や効率化を追求することにより、使われなくなる能力・失っているものがあります。それらが将来的に本当に不要なのかどうか、マネジメントとしての「さじ加減」の重要性を改めて感じています。
※アスクラボのPROナビ、AIリスク通知、ユーザエネルギー、トップアプローチ研修、SEのためのシステム営業力養成研修は、空気を読む能力、暗黙知の向上、マネジメント能力の向上など、人の能力向上とIT技術の活用のバランスを考えた「さじ加減」を要素に含んだ商品・サービスです。
アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙